求人票に関わりなく、現実の説明が有効?

求人票に関わりなく、現実の説明が有効との判断が労働裁判でも示される事例があるのですが、本来は職安法ではハローワークの求人票は守るべき内容なのですが・・。

徹夜で約21時間の連続勤務をしたあと、自宅にバイクで帰る途中に交通事故死した20代男性の遺族が、男性の勤務していた会社を刑事告訴した。警視庁に告 訴した理由は、実際の過酷な勤務実態とは違う内容の「求人票」をハローワークに出していたことが、職業安定法に違反するというものだ。

告訴したのは、東京都内の植栽会社に勤務していた渡辺航太さん(当時24歳)の母親、淳子さん。刑事告訴から2日後の1月22日、淳子さんと代理人の弁護士らは東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで会見を開き、会社を告訴した背景を説明した。

この事故をめぐっては、航太さんの死亡から1年後の昨年4月、遺族が1億651万円の損害賠償を会社に求めて横浜地裁川崎支部に提訴し、現在も民事裁判が続いている。

●求人票の残業は「月平均20時間」 実際は「月134時間」

記者会見での説明によると、航太さんは大学卒業後、ハローワークの求人で、商業施設などに観葉植物を飾り付ける植栽会社(本社・東京都)を知り、2013 年10月から、アルバイトとして働き始めた。勤務は深夜・早朝に及び、残業時間は月130時間を超えるときもあるなど、過酷な労働環境だったという。

悲惨な交通事故が起きたのは、2014年4月。航太さんは、顧客店舗の飾り付けのため、4月23日の午前11時から翌24日の午前8時まで、約21時間に わたって、仮眠も取らずに働いた。その後、原付バイクで自宅に帰ろうとしたが、午前9時ごろ、帰宅途中の道路の電柱に衝突し、脳挫傷と外傷性くも膜下出血 で死亡した。

淳子さんが問題視しているのが、会社がハローワークに出していた「求人票」だ。そこには、次のような労働条件が記されていたという。

・新卒正社員募集・試用期間なし

・就業時間 8時50分~17時50分

・時間外 月平均20時間

・マイカー通勤 不可

ところが、淳子さんの代理人の川岸卓哉弁護士によると、実際の労働環境は、これらの記載と全く異なっていたというのだ。

●虚偽の求人票を罰する「職業安定法65条」

まず、航太さんは採用面接の際、求人票に書かれていた「新卒正社員募集・試用期間なし」という雇用形態ではなく、アルバイトとしての就労を求められた。し かし、いずれ正社員になることを期待して、承諾したという。実際に正社員として採用することを口頭で告げられたのは、バイトとして働き始めてから半年後 だった。

また、求人票では「就業時間 8時50分~17時50分」「時間外 月平均20時間」と書かれていたが、実際には深夜・早朝におよぶ不規則な長時間労働に従事させられ、1カ月の残業時間が134時間に及ぶこともあったという。

さらに、「マイカー通勤 不可」という記載も事実ではなく、帰宅時間が鉄道やバスを使えないような時間になると予想される日は、原付バイクを使って帰るように指示されていたという。その結果、原付バイクでの通勤が常態化していた。

川岸弁護士は会見で「これらの4点について、虚偽の労働条件の記載があったため、告訴した」と語った。刑事告訴の根拠としてあげているのは、職業安定法の65条だ。

そこには、「虚偽の広告」をしたり「虚偽の条件」を示して「労働者の募集」を行った者は、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられるという規定がある。航太さんが勤めていた会社は、この職業安定法65条に違反したから、処罰を受けるべきだというのだ。

ただ、川岸弁護士が厚労省に確認したところ、職業安定法65条の罰則規定が過去に適用された例はないのだという。「完全に死文化している」(川岸弁護士)ということだが、今回の刑事告訴を受けて、初の処罰につながっていくのか、注目される。

●「その時間に戻って、求人票を破り捨てたい」

母親の淳子さんは、航太さんから会社の求人票を見せられたとき、深夜勤務がないことやマイカー通勤不可などの条件を確認したうえで、「これなら息子はやっていける」と思い、応募することを勧めたという。

淳子さんは会見で、涙で声を詰まらせながら次のように語った。

「そのときの希望に満ちた息子の笑顔をはっきり覚えています。
私がハローワークの求人票を信用して勧めたときの言葉や、将来の夢を楽しく語りながら食事をした時間を忘れることができません。
この1年9カ月、毎日毎日、その場面を繰り返し思い出しています。

ウソの求人をすすめなければ、今も息子が元気に生きていることは間違いないからです。
できることならその時間に戻って、求人票を破り捨てたい。

ハローワークの求人票を信用してしまった私の勧めで、突き進んで行った息子は、もう戻ってきません。これから就職する若者たちのためにも、二度とこのような不幸が繰り返されることがないよう、強く望んでいます」