客は絶対払ってはいけない?

居酒屋でウーロンハイの「焼酎濃いめ」を頼んだら、1杯につき5杯分の料金を請求された。

 こんなトラブルが、インターネット上で「ボッタクリだ!」「あり得ない」と話題になっている。
何気なく頼んでしまうチューハイなどの「焼酎濃いめ」だが、これはサービスの範疇なのか、それとも料金割り増しが妥当なのか。
実際の事例を踏まえて、弁護士に見解を聞いた。

●居酒屋によって異なる「焼酎濃いめ」の対応

 1月、東京都内の飲食店で客がウーロンハイを「焼酎濃いめ」で注文したところ、その料金が常軌を逸しているとして話題になった。

  客側の言い分では、2人で2時間程度の飲食をして会計後にレシートを確認すると、「ウーロンハイ30杯」「レモンサワー28杯」と記載されていた。店側は 「ジョッキの9割くらいを焼酎にした」と反論して、料金は正当だと主張する。
現在、弁護士を間に入れての話し合いが持たれているという。

 居酒屋で、客がチューハイなどを「焼酎濃いめ」で頼むことはよくある話だ。
客側としては、酒を少し多めにしてもらう程度は「サービス」の範囲内だという感覚があるため、料金が加算されると「おかしいな」となる。

 そこで、大手居酒屋チェーン数社に「ウーロンハイを『焼酎濃いめ』で頼むと、料金が割り増しになるかどうか」を聞いた。

 全品280円の均一料金が売りの「鳥貴族」(運営:鳥貴族)に聞くと、「濃いめ」の対応はしておらず、「和民」(同ワタミ)は「対応可能」とのこと。その場合のレシピは「焼酎を45cc追加、料金はプラス120円」と明確に定められているという。

  一方、「白木屋」(同モンテローザ)は料金は加算されるが、「対応できるかどうかは、店舗によって異なる」というあいまいな回答だった。
「日本海庄や」 (同大庄)の場合、基本的に無料だが100~200円ほど加算されることもあり、やはり店舗によって対応が異なるという。

●店側が勝手に料金加算すると、錯誤・詐欺になることも

 有名チェーンでもこれだけ対応が違うのだから、なんの気なしに「焼酎濃いめ」を頼んで会計時にトラブルになる、というケースは現実的に起こり得る話といえる。では、実際に「焼酎濃いめ」で店側とトラブルになった場合は、どうしたらいいのだろうか。

「こ れは、民法でいう『錯誤』(民法95条)の問題です。例えば、高級レストランで『水をください』と頼み、ミネラルウォーターが運ばれてきて高額料金を取ら れるケースに似ています。客側は『水はタダ』という認識で水を注文したのに対して、店側は『水は商品』なので有料であると考えて水を提供しているので、加 算料金が発生するかどうかについて、相手に対する意思表示と内心が一致していないという錯誤があると考えられます。ご飯のおかわりに加算料金が取られるか どうかも、同じ問題です」(弁護士)

 ここでいう錯誤とは、「表意者が無意識的に、内心の意思とは異なる意思表示をすること」。「焼酎濃いめで 頼むと◯◯円加算」ということを客側が理解した上で注文していないと、錯誤となり、注文が無効になるということだ。ただ、民法95条によれば、注文者側に 「重大な過失」があると錯誤ということはできなくなるため、「焼酎濃いめ」の加算料金がメニューなどに明示されていたような場合には、無効とはならないだ ろう。

 さらに、店側が、意図的に「焼酎濃いめ」の料金をメニューなどに明示せず、客にも事前に告げずに会計時に加算するような場合には、 店側の詐欺(民法96条)となる場合もありうる。
もし、そういったトラブルに遭ったら、レシートやメニューなどの証拠を残し、納得のいかない料金は「払わ ない」ことが重要だという。

「払ってしまった後に気づき、レシートなどを提示して抗議することもできますが、現実的には一度支払った金額を取り戻すのは大変なので、なるべく支払う前に、その場でレシートを確認して抗議するのが望ましいでしょう」(同)

 問題は、店側も正当性を主張し、「払え」「払わない」というトラブルになってしまった場合だ。

「こ うした案件の場合、警察はかなり悪質な場合でない限りは民事不介入のため、基本的には取り合ってくれません。公安委員会が指定する地域で営業しているキャ バレークラブや風俗店などであれば『ぼったくり防止条例』があるため、ある程度は対応してくれることもありますが、一般的な居酒屋チェーンでは難しいで しょう。弁護士に相談することで解決に向かうとは思いますが、数百円の差額を取り返すために費用を支払って相談するのは、現実的ではないかもしれません」(同)

 酔いが回ると、ついつい「焼酎濃いめ」と頼んでしまうが、店によって対応が異なる以上、しっかりとメニューを確認してから注文したほうがよさそうだ。